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こちらは謎解きで制作していましたが、

​直前にシステムの都合で謎解きとして発表、実施することが困難となりました。
​会期中にシステムの不具合を調整し、謎解きとして再アップする予定です。


ストーリーは変わりませんが、
謎解きの内容に関しては再訪問の可能性を考え、極力触れないようにしております。


また現在はストーリーを読むだけでもノベルティがもらえます。​
最後の合言葉を1階受付にてお伝えいただければお渡しします。
この度は準備不足で本当に申し訳ございません。

​ストーリーを楽しんでいただけたら幸いです。

2. Parchment discovery

ご注意:商品観覧中の方を優先してください。

この羊皮紙は、教授が古代遺跡の研究に奔走していた折に、知り合いの考古学者から譲り受けたものだ。

その考古学者は、この羊皮紙を発掘したものの、存在意義を見出せず、研究資料として使われることもなく持て余していたらしい。

そんな折に、教授が幸運にも譲り受けたという。

 

長い間、意味不明な文言が記されていると考えられ、研究室でも放置されていた。

しかし最近、羊皮紙と一緒に発掘された品々の中にあった奇妙な形状の金属板を手がかりに、示された場所に向かうと隠された部屋が見つかったのだ。

その部屋からは、錬金術に用いられたと思われる特殊な形状の道具や、かなり古い年代の書物が発見され、この羊皮紙の重要性が再認識された。

同時に発掘された他の品々も、様々な分野の専門家によって研究が進められており、新たな発見が相次いでいる。

この羊皮紙にも、古代文明の謎を解き明かす鍵、あるいは、まだ見ぬ遺跡へと続く道標が記されているのではないかと、期待が高まっている。

 

教授はこの羊皮紙の解読を本格的に進めるにあたり、研究室に所属する学生だけでなく、他学科の学生にも門戸を開いた。

私はその知らせを聞き、迷わず応募した。


そして、幸運にも選考を通過し、最終試験にまで辿り着いた。

最後の試験は一枚の写真と共に

「この箱を開け」

と、一言添えられていた。

 

写真には古い木製の箱が写っており、箱の右側は回転式の数字を合わせる鍵になっている。

左側には文章が彫られている。

 

 

 

Τὸ Υ καὶ ὁ κριός ἴσοι εἰσί, καὶ συναμφότερα ὁ κύριος γίγνεται.

Ἐὰν τὸν κύριος συναρμόσῃς, ἡ σφραγὶς ἀνοίγεται.

 

 


 

2章箱.jpg

翻訳すると

『Υ』と『κριος』(牡羊)は等しく、合わされば『κύριος』(主)になる。

『κύριος』を揃えれば、封は開く。

となった。

 

Υは、ギリシア語アルファベットの20番目の文字ユプシロン。

小文字は「υ」。母音のひとつだ。

κριοςは、「雄羊」や「牡羊座」を意味する名詞である。

κύριοςは、「主」や「主人」を意味する名詞で、キリスト教では「神」を指す言葉としても使われる。

「神は雄羊(犠牲)を通して現れる」といった象徴的な意味合いがあるのだろうか。

 

試験には期日が設けられていない。

答えられればすぐにでも研究室に参加できるという。

私は一枚の写真と向き合うことになった。

 

いろいろと調べたのだが、進展が滞り悩んでいた。本当は自力で解きたかったのだけど、少しズルいと思いつつも、同じ科の先輩であり、その研究室に在籍する葛城に相談することにした。

「今、あの試験を受けてるの?写真の箱、あの箱の中に羊皮紙が入っていたのよ。」

「そうなんですね!そう考えるとドキドキします。」

「私もあの問題を解いて研究室に入ったのよ。箱を開けることで羊皮紙と会えるっていう教授の考えみたいよ。」

「じゃあ、研究室の皆さん箱を開いたってことなんですね。」

「あの問題、結構難しいよね。さすがに答えは教えられないけど、ヒントくらいならいいのかな……。」

そういうと葛城は、メモ用紙にサラサラと図を描いて私に手渡した。

「実はこれ、同じ日に研究室の試験を受けた葉山にもらったヒントなの。葉山は言語の分野の人間だからすぐわかったみたい。じゃあ、頑張ってね!」

メモには3つの天秤が書いてあり、それぞれに「Α」と「1」、「ΑΒΓΔΕFΖΗΘ」と「45」、「Α Ι Ρ 」と「111」が釣り合う形で描かれていた。​​

​長らく考えなんとかこれだ!と思える答えに辿り着いた。

 

私は何度か確認して間違いないことを確信すると教授に急いで連絡をした。

返事が返ってくるまで落ち着かない時間を過ごした。

やがて一通の通知が届いた。教授からの返信だった。

「正解!研究室にようこそ!」

教授の研究室に参加できることになったのだ。

翌日から私は研究室に加わることが決まったのだ!


 

教授の研究室は、三叉路に立つ古い校舎の3階にある。

私は緊張しながらその扉を開けた。

小さな部屋には、教授が世界中から集めてきたという奇妙な骨董品が所狭しと並んでいる。

壁には剥製の鳥や動物の頭が飾られ、棚には年代物の書籍や巻物が積み上げられている。

研究室にはすでに人がたくさん集まっている。

テーブルの上には、小さな羊皮紙。研究員たちは身を乗り出し、その古びた表面に記されたギリシア語の文言を食い入るように見つめていた。

3. In the lab

「さて、と。」

葉山は、おもむろに羊皮紙を手に取ると、その表面に刻まれた古代ギリシア語の文字を、一語一語丁寧に読み上げていく。その姿は、まるで古代の呪文を唱えているかのようだ。

 

私はその呪文を遮るように、少し緊張しながら声をかけた。

「あの……。実は、今日が研究室に初めて来る日でして。皆さんと、まだちゃんとご挨拶できていないなと思いまして……。」

研究室の知り合いは教授と同じ学科の先輩である葛城だけだ。

「あら、そうだったの?!」

葛城が驚いたように声を上げた。

「ごめんね、うっかりしてたわ。教授から聞いていたのに……。まずは自己紹介ね!」

 

「私は葉山と申します。専門は歴史学と古文書解読です。この研究室では、リーダーのようなことをさせてもらっています。」

葉山は、にこやかに自己紹介をした。

 

「私も、今日が初めてなんです。」

隣に座っていた女性が、少し恥ずかしそうに手を挙げた。

「川上です。情報科学者で、コンピュータ解析や画像処理が専門……。なのですが、まだ不慣れなことも多いので、いろいろ教えていただけると嬉しいです。」

初めて会う人ばかりの研究室で心細かったが、川上も同じく今日が初めてだと知り、少し心強くなった。初めて同士と思い私は話しかけた。

「あの試験の問題難しくなかったですか?」

「すごい難しかったです。私、古代文字と数字の関係を調べているうちに、ゲマトリアっていう言葉を知って、それでいろいろと調べているうちに便利な変換ツールが無いかと探したのですが見つからず、最終的に自分で作ってしまいまして……。」

「それはすごいですね!」

 

「私は葛城。神話や伝説が専門で、古代の宗教や思想にも詳しいんだ。分からないことがあれば、いつでも聞いてね。」

葛城は、いつもの明るい笑顔で自己紹介をした。

 

「どうも、坪井です。私は一年のほとんどを現地調査で世界各地を回っています。なので、いろいろな国の文化や地理には詳しい方です。まぁ教授には敵いませんが……。何か知りたいことがあれば聞いてください。」

坪井は、にこやかに自己紹介をした。

「坪井さんは本当にすごいんですよ。以前、調査中に遭難しかけたことがあったらしいんですけど、持ち前のサバイバルスキルで何とか生き延びたみたいで……。」

葛城さんが、目を輝かせて坪井さんのエピソードを語ってくれた。

 

「そういえば……。教授は?」
葛城さんは、少し困ったように周囲を見回した。

「まだ来ていないみたいね。」

「教授は予定とか忘れてすぐどこか行っちゃうからなぁ。」

葉山が呆れながら笑っている。

「話し合いを始める前にとりあえず、教授を探しましょうか。」

 

やっとのこと教授を見つけた。

「教授、みんな探してますよ!」

「あ、ごめんごめん!ちょっとね、考え事をしていてね。そうそう、お土産にもらったお菓子を頂いたんだけどがめちゃくちゃ美味しくて、おひとつどうかな?」

教授は一瞬申し訳なさそうにしていたが、すぐに特に気にすることなく談笑しながら研究室に歩き始めた。

4. Deciphering the first line

改めて私たち6人ははテーブルを囲み、話し合いを始めた。

「じゃあ、早速だけど、このギリシア語の文言を解読していきましょう。」

葉山は、羊皮紙をテーブルに広げながら言った。

「文言は3節に分かれています。内容的には3節で1つというよりは、それぞれ独立した文章という印象を受けます。」

「葉山くん、君の古代ギリシア語の知識は研究室でも随一だからね。今回の羊皮紙の解読も期待しているよ。まずは、君が翻訳したものを皆で見てみようか。」

教授は葉山の目をまっすぐ見ながら、そう言った。

 

「わかりました。まず、1節目は『穏やかなるナイル、セイレーンの風、各々が一つ、東の太陽の力。』となります。風景描写のようにも感じますが、『各々が一つ』というのは条件の指定なので、前半の文言も違う意味で捉える必要がありそうです。」

葉山がそう答えると、葛城が続けて話しだした。

「『東の太陽の力』というのは、昇ってくる太陽。つまり夜明けや朝、午前中を意味しそうね。日の出の方角?」

 

私もすかさず続けて話してみた。

「『穏やかなるナイル、セイレーンの風』というのは、場所についてでしょうか?」

葛城が少し眉をひそめて返事をする。

「うーん、ナイル川と言えばアフリカ大陸北東部を指し、恩恵によって古代文明が栄えたエジプトが思い浮かぶけれど、セイレーンといえばギリシア神話に登場する海の怪物……。場所を示すにはチグハグな感じが拭えないのよね。」

 

「ナイル川が穏やかになる時期や、ギリシアの海風が特徴的な時期が関連しているのであれば、時間軸を表す文章の可能性はありますね。ナイルとセイレーンの関係性や、ギリシアとナイルの位置関係や、ギリシア神話に出てくるナイル川の神ネイロスについても調べて、何か関連性が見出せないか調べてみましょう。」

そう教授がまとめると、葉山がすかさず補足説明をした。

「あとですね、セイレーンはギリシア語で『Σειρήν』。本来は『縛るもの』という意味なんです。そこから『誘惑するもの』という意味も派生して、危険な岩礁や渦潮を指す言葉としても使われていました。ナイル川で『縛るもの』や『誘惑するもの』という視点もあるかもしれない。」

「なるほど……。じゃあ、ナイルの危険な場所ってこともありえるのね。」

葛城さんは、頷きながら言った。

「危険な場所ねぇ……。とはいえ『各々が一つ』となると複数の答えが必要ってことだよな……?」

坪井は、首を傾げた。
 

思い出したように葉山がつぶやいた。

「地名の話をするのなら、『東の』を意味する『Ἀνατολῆς』には、小アジアを意味するアナトリアの意味も含んでいる……。とはいえ、上昇するや成長するといった意味合いの方が強いかな……。」

地図を眺めながら私は呟いた。

「強引に考えれば、ギリシアとエジプト、アナトリアで正三角形が作れないでもないけど……。強引すぎるかな……。」

研究室の壁に掛けられた世界地図。古代ギリシア、エジプト、アナトリアの位置を、私は何度も見比べた。それぞれの場所は、羊皮紙の文言とどのように関係しているのか。私は、地図と羊皮紙を交互に見ながら、考えを巡らせた。

5. Deciphering the second line

5章おおぐま.jpg

「1行目についてはひとまず置いておいて、進めましょう。」

みんな考え込んで会話がなくなってしばらく経ったため、教授が仕切り直した。

「そうですね。それでは2節目、『白き巨人の冠より、氷涙の先へ、鳥たちの温もり、小熊の尾。』となります。」

葉山は、羊皮紙を指さしながら言った。

「……なるほど。」

葛城は、顎に手を当てて考え込むように呟いた。

 

「『小熊の尾』とは、小熊座の尻尾に位置する北極星のことですかね?」

教授が話し始めた。

「歳差運動を加味しても、ここ1000年程度なら北極点から多少ずれていたとしても『北』を意味していると考えて問題ないと思います。とはいえ、『尾』とついているのを考えると16世紀以降の大航海時代以後の可能性が高いですね。」

 

歳差運動という馴染みのない言葉に疑問を抱くも、先輩たちはうんうん頷いている。

質問するまもなく川上が話しだした。

「とりあえず『鳥たちの温もり』とあるので、鳥の体温を調べたのですが、40〜42度とかなり高いんですね。大体これくらいの温度のものというと発熱、熱中症、温泉、夏の日差し、熱帯の海、砂漠が該当しそうです。」

「のぼせそうなものばかりだね。」

と、坪井が笑っている。

 

一方、葉山は真剣な顔で考え込むように言った。

「白い巨人って、一体何を意味しているんだろう?雪山か、氷山か、それとも……。」

「白い建物、という可能性もあるわね」

葛城が、補足した。

「例えば、エジプトのピラミッドとか、ロシアのクレムリンとか……。」

「なるほど、白いもの、か」

川上も、二人の会話に耳を傾けながら、何かを考えているようだ。

 

「王冠、という言葉からは、頂上や最高点、権威といったイメージが湧くわね。」

葛城は、さらに言葉を続けた。

「特別な場所、目立つ場所、重要な場所……そういった場所を指しているのかもしれないわ」

「そう考えると、雪山の頂上や氷山の頂上、あるいは、象徴的な白い建物……そういった場所が候補として挙げられるわね。」

 

「『氷涙の先へ』というのも気になるな」

葉山は、今度は別の文言に注目した。

「氷の涙……雪解け水や、氷柱、氷河から滴り落ちる水……そういったものを連想させる言葉だが、『氷』を意味する『Κρυστάλλου』は、水晶、ガラス、ダイヤモンドなど透き通ったものも意味する。」

「そうなると、それらの鉱物が取れる河というのも選択肢に入るのね。その先、ということは、その行く末や越えた先、その次にくるものを指している……。」

葛城が、説明を加えた。

 

「つまり……。白い巨人の王冠、氷の涙、鳥の体温、小熊の尾……。これらの要素を満たす場所を探せばいい、ということかね?」

教授が話している間に、葛城は資料に目を通し、何か考え込んでいる。

教授が話を終えると、自信を持った口調で答えた。

「おそらく、そうですね。これらの先に小熊の尾と考えると、南北に直列に並んでいる可能性が高いです。」

「じゃあ、目的地として指し示しているのは『鳥たちの温もり』ということですか?」

私がそう質問すると、葉山と教授が深く頷いた。


 

6.Deciphering the third line

6章ミトラ.jpg

「2行目は一旦ここまでにして次に行ってみようか?」

地図を眺め、場所の特定をしようとしている私たちの様子を見た教授は、おもむろに口を開いた。

「そうですね。3節目を見ることでまた違う視点が生まれるかもしれません。」

葉山はそういうと改めて羊皮紙に目を落とした。

「3節目は、『盲目のカラスの試練、彼の目に映るは虚像、光は導き、再び燃え上がる、ミトラの灯』……といったところかな。」

 

「うん、まず最後の『ミトラの灯』とあるが、ミトラとは元を辿ればアーリア人、つまり古いインド・イランに起源を持つ、光と契約の神だ。」

教授が説明を始めた。

「紀元前14世紀には、条約の守護神としての記録があり、すでに重要な神として信仰されていた。インドのヴェーダやヒンドゥー教、イランのゾロアスター教、マニ教に収まらず、仏教やキリスト教……様々な宗教に影響を与えていると言われているね。」

 

「仏教ではマイトレーヤ、馴染みのある名前では弥勒菩薩として信仰されていますよね。」

葛城も話題に乗って話し始めた。

「古代インド・イランの多神教の宗教では、契約、真実、光などを司る神とされ、太陽神、戦神、豊穣神など、様々な性格を持つ神として崇拝されていた。その後、イランでは一神教のゾロアスター教が成立し、ミトラの地位は以前よりも下がったものの、重要な神格として崇拝されていたと言われてますね。」

 

教授は頷き、少し間を置いて話を続けた。

「ヘレニズム時代には、ギリシア文化とオリエント文化が融合し、地中海世界から中央アジア、インドに至るまで、広範囲な交易経路が完成した。

この時、シンクレティズム……つまり、異なる宗教や文化が混ざり合い、新しい体系が生まれる現象が各地で起きた。

この時に生まれた宗教、文化、思想は現在まで影響を与えているものが多い。

有名なものではグノーシス主義、新プラトン主義、ストア派、コスモポリタニズムといろいろな思想が生まれ、これらはキリスト教やイスラム教といったその後の宗教の形成に大きな影響を与えた。当時、生まれた宗教もたくさんある。ヘルメス主義やイシス信仰、ディオニュソス信仰など他にも様々ある。」

熱を帯びてきた教授は、さらに続ける。

「そんな中で生まれた宗教の一つがミトラ教だ。ミトラを主神にする密儀宗教で、階級制度、救済思想など、後の宗教に見られる要素を多く備えていた。1世紀より4世紀にかけて興隆したとされる。」

 

葉山は腕組みをして教授の言葉に耳を傾ける。

「ミトラ教の遺跡は、ローマ帝国の各地で見つかっていますよね……?確か、ローマ軍と関係が深かったとか?」

教授は頷いて答えた。

「その通り。ローマ帝国の兵士を中心に広まったんだ。ミトラ教の神殿は地中海の各地に建てられた。儀式に水が必要だったこともあり、湖、川、泉などの水源や温泉の近くに建てられることが多かったんだ。」

 

葛城が話を補足する。

「ミトラ教には、7段階の位階と儀式があって、位階は、カラス、ニュンフス、兵士、獅子、ペルシア人、太陽の使者、父……でしたよね。」

「なんだか、秘密結社みたいですね……。」

坪井が興味深そうに呟いた。教授は、坪井の言葉に軽く頷くと、説明を続けた。

「そうだね。ミトラ教は、古い秘儀宗教だから未解明な部分も多い。

記録が残っていてもおかしくないんだけど、古いこともあるし、秘儀だから口外されていなかったのか、残された資料は少ないんだ。

もともとの古いインド・イランに起源を持つミトラとは、性格がかなり違うため、西方ミトラ教とあえて呼称を分けていることがあるんだ。」

 

「そういえば、この羊皮紙に書かれている『盲目のカラスの試練』って、ミトラ教の儀式と関係があるんですか?」

葉山が尋ねた。教授は、羊皮紙を指さしながら言った。

「ああ、おそらくね。ミトラ教の最初の位階である”カラスの儀式”は入会の儀式でもあった。その儀式の一部で、入信者は目隠しをして全裸で横たわり、他の信者に囲まれ剣をかざされるというものがあったとされているんだ。」

「ええっ、裸で剣をかざされるんですか?!」

川上は目を丸くした。

「それは、ちょっと怖いですね……。」

「まぁ、そうだな。これは本当に怖いよな。しかし、これは試練を乗り越え、新たな境地に至るための儀式だったのかもしれない。」

教授はそう言って、身震いしている。それを見てみんなでクスッと笑った。

 

「この一致は、3節目はミトラ教について書かれていると考えていいんですかね?」葉山が改めて確認する。

 

「まぁ、そう言い切れないけど可能性は高いと言えるかもしれないね。」

教授は少し間を置いてから答えた。

「羊皮紙の『再び燃える ミトラの灯』という一文について考えてみよう。再び燃えるという言葉が復活を意味するならば、太陽神であるミトラの復活は冬至を意味する。1節目の”夏至や冬至の日の出”と併せて考えると、冬至の日の出とするのが妥当だと考えられる。」

 

ミトラ教が興隆した1世紀より4世紀にかけて、ローマ帝国は地中海をほぼ完全に支配していた……。

私は、頭の中で歴史の教科書をめくるように、当時のローマ帝国の勢力図を思い浮かべた。

地中海を囲う広大な領土、強大な軍事力……。

そんなローマ帝国で、ミトラ教が兵士たちの間で広く信仰されていたということは、きっと各地に神殿が建てられていたに違いない。

 

教授の説明によると、ミトラ教の儀式には水が必要だったらしい。

つまり、神殿は水源の近くに建てられていた可能性が高い。

湖、川、泉……。

そして、温泉……。

 

温泉……。

 

私は、2行目の「鳥たちの温もり」という言葉が、もしかしたら温泉を意味しているのではないかと考え始めた。

もしそうだとしたら、ミトラ教の神殿が温泉の近くにあるという事実は、場所の特定に大きく役立つかもしれない。

 

文言を一通り確認したので、一旦各々で調べることになった。

7.gematoria

川上がノートパソコンを開き、何か作業をしている。

「あれ……? 何かおかしい……?」

と、つぶやいている。焦った様子で顔の血の気が引いていくのがわかった。

 

気になって画面を覗き込むと、真っ赤な画面に、警告メッセージが表示されていた。

【セキュリティシステムが作動しました。不正な操作を検知したため、ツールはロックされました。解除するには、パスワードを入力してください。】

「うそでしょ……。」

川上は頭を抱えていた。只事ではないと思い私は話しかけた。

「大丈夫?どうかしたの?」

 

「ちょっと試したいことがあってツールを立ち上げようと思ったんだけど、良くない操作をしたみたいで、緊急セキュリティモードになってしまって……。」

と、川上はバツが悪そうに続ける。

「パスワードを入れれば解除できるんだけど、忘れちゃって……。」

 

川上はカバンから手帳を取り出し、パラパラとめくり開いて見せてきた。

「一体、これは……?」

そこにはよくわからない図形のようなメモのようなものが描かれていた。

「パスワードを忘れても大丈夫なように手帳に書いておいたんだけど、他の人が見てもわからないように、暗号みたいにしていたんだけど……。自分でもわからなくなっちゃって……。」

 

「これは……。」

私は、手帳に描かれた暗号を見て、思わず息を呑んだ。

「あの……。パスワードの解読手伝ってもらえますか?」

川上は申し訳なさそうにお願いしてきた。

困っている人は見過ごせないので、一緒にパスワードを解読することにした。

川上がノートパソコンを開き、何か作業をしている。

「あれ……? 何かおかしい……?」

と、つぶやいている。焦った様子で顔の血の気が引いていくのがわかった。

 

気になって画面を覗き込むと、真っ赤な画面に、警告メッセージが表示されていた。

【セキュリティシステムが作動しました。不正な操作を検知したため、ツールはロックされました。解除するには、パスワードを入力してください。】

「うそでしょ……。」

川上は頭を抱えていた。只事ではないと思い私は話しかけた。

「大丈夫?どうかしたの?」

 

「ちょっと試したいことがあってツールを立ち上げようと思ったんだけど、良くない操作をしたみたいで、緊急セキュリティモードになってしまって……。」

と、川上はバツが悪そうに続ける。

「パスワードを入れれば解除できるんだけど、忘れちゃって……。」

 

川上はカバンから手帳を取り出し、パラパラとめくり開いて見せてきた。

「一体、これは……?」

そこにはよくわからない図形のようなメモのようなものが描かれていた。

「パスワードを忘れても大丈夫なように手帳に書いておいたんだけど、他の人が見てもわからないように、暗号みたいにしていたんだけど……。自分でもわからなくなっちゃって……。」

 

「これは……。」

私は、手帳に描かれた暗号を見て、思わず息を呑んだ。

「あの……。パスワードの解読手伝ってもらえますか?」

川上は申し訳なさそうにお願いしてきた。

困っている人は見過ごせないので、一緒にパスワードを解読することにした。

1時間後
 

「わかった!」

私が解読したパスワードを伝えると、川上はそれを入力する。

「やった! 解除できた!」

川上は、喜びの声を上げた。

「ありがとうございます!」

川上は感謝の言葉を述べると、すぐに作業に取り掛かった。

 

「ねえ、これは何をしているの?」

何をしているか気になった私は川上に尋ねた。

「ここに入る試験の時にギリシア語を数字にしたのを思い出してね。で、その時に作った変換ツールがあるから、数字に変換してみようかなって。」

川上は文言を入力して、ツールを実行した。

出来上がった数字を見て、私と川上はお互い顔を見合わせた。

「これって……。」


 

「教授、ちょっと面白いことを見つけたんですが……。」

川上が、ノートパソコンの画面を教授に向けた。

「羊皮紙の1節目をゲマトリアで解析してみたんです。」

「ほう、それは興味深い。で、何か結果は出たのかね?」

教授は、期待を込めた眼差しで画面を見つめる。

その視線に、川上は少し緊張した面持ちで、ノートパソコンの画面を操作する。

 

「はい、1節目全体をゲマトリアで数値化してみたところ……。365、365、365、366という数字が出てきたんです。」

川上は、少し興奮気味に説明した。

「365は、1年の日数。そして、366は閏年の日数です! つまり、これは4年間を表しているのではないでしょうか?!」

 

教授は、深く頷き、腕組みをして考え込む。

「これは、重要な発見かもしれないぞ。羊皮紙の1節目は、4年間のサイクル。それぞれにひとつづつ。つまり、毎年1年間の中で特定の1日を指し示している可能性があるのか……。」

 

私もそう思い、力強く頷いた。

「その特定の1日とは、おそらく夏至か冬至……いずれかでしょう。1節目に『東の太陽の力』という言葉が日の出だとして、夏至や冬至の日の出を暗示しているのではないでしょうか?」

 

「そういえばミトラ教は天文に長けていて、一部の神殿は春分の日と秋分の日に日の出の太陽光が神殿内部に届いて明るく照らすという話を聞いたことがありますね。」

と葛城が話す。教授は頷き補足する。

「そうだね。真東の方向に直線的に扉と通路が設けられているものが多いと聞いたことがあるね。」

 

葉山が続ける。

「しかし、それだと一年に2度、朝日が差し込むことになる。夏至か冬至のどちらかの方が当てはまる気がしますね。」

「3節目の『再び燃える ミトラの灯』とも繋がりますね……。夏至は太陽の力が最大になる日。そして、冬至はミトラの復活を祝う日でもある。」

 

「ところで、昔は太陰暦が主流だったんじゃないんですか?太陽暦って、いつ頃から使われていたんでしょうか?」

坪井が疑問を投げかけた。それに対して教授が答えた。

「初期のちゃんとした太陽暦としては、ユリウス暦やコプト暦が有名ですね。しかし、エジプトでは、それよりもずっと昔からシリウスの観測によって1年の周期を理解していたんですよ。」

 

「シリウスの観測ですか?なぜ、シリウスを観測していたんですか?」

川上が興味を示した。それには葛城が答えた。

「ナイル川の氾濫を予測するためよ。日の出直前にシリウスが地平線から昇ってくる日を目印にしていたんだって。その日の近くにナイル川が氾濫するため、観測する習慣がついたとされているわ。農業のサイクルにも利用されていたみたいね。」

 

教授が続ける。

「その日はソティス日と呼ばれ、正月として祝われていた。面白いことに、一年が365.25日と認知していたのに、暦は1年を365日で運行していたんだ。つまり、4年に1日ずつずれていくことになる。」

「え、じゃあどうなるんですか?。季節と暦がずっとずれていきますよね?」

川上が質問する。それに対して葉山が答える。

「そのままずらし続けたみたいなんだ。1460年経過すると一周するんだよ。暦の正月とソティス日が重なった日は真の正月として盛大に祝っていたらしい。古代ギリシア人は、この現象を『アポカスタシス』と呼んでいたそうですね。」

 

「少し似た話で、メソポタミアでは太陰太陽暦が採用されていたんだ。月の満ち欠けを目安にした太陰暦を使っていたが、季節とのズレを調整するために閏月を挿入する必要があったんだ。」

教授は続ける。

「その基準となったのが、牡羊座のフンガ星だ。春分の日の少し前、太陽が昇る直前の東の空にフンガ星が現れることを発見し、その日を春分点としたんだ。ここから12星座の始まりが牡羊座になっている。」

 

「牡牛座のプレアデス星団も似たような役割でしたよね?メソポタミアの星の記録「ムル・アピン」の黄道上の星のリストでは、最初の項目になっていて、それも春分を示していたような……。」

葛城が疑問をぶつけた。教授が答える。

「それは地球の歳差運動の影響で……。」

「教授、先ほども話に出てましたけど、歳差運動ってなんですか?」

「簡単にいうと地球の軸がゆっくりとズレていて、地球の角度が変わっているんだけど……。フンガ星の方が時代が古く、昔はフンガ星が春分点に近かったのだけれど、紀元前23世紀頃にはプレアデス星団が春分点に近かったことを反映していると言われている。ちなみにシリウスは、他の星と比べて歳差運動の影響が少ないと言われているよ。」

 

「昔から、そんなに正確な天体観測が行われていたんですね……。太陽暦からこの羊皮紙が作成された時代の割り出しが出来るかと思ったんですが、そううまくはいかないものですね。」

坪井は、感心したように呟いた。続けて坪井が発言する。

「そういえば、ナイル川の氾濫時期は6月から9月頃で、この時期はナイル川が荒れ狂う時期です。2行目の『穏やかなナイル』という言葉は、この時期以外を指しているのではないでしょうか。だとすると、1節目の日付は、ナイル川が穏やかになる冬至の方が当てはまるのではないでしょうか?」

「なるほど……。確かに、1行目の『穏やかなナイル』という言葉は、氾濫期以外の時期を指している可能性が高いね。となると、冬至の可能性が高まるな。」

教授は、深く頷いた。

 

「でも、本当に冬至で確定なんでしょうか……? 1節目の文章が、単に年の周期を表しているだけという可能性はないんでしょうか……?」

私は、少し不安気に呟いた。

 

「確かに、まだ冬至だと断定するには、少し情報が足りないかもしれないな。」

教授は、私の言葉に同意するように頷いた。

「しかし、これまでの議論を総合的に考えると、冬至の可能性が最も高いと言えるだろう。まずは、冬至を前提に、他の手がかりを探ってみるのも良いかもしれない。」

 

私は、冬至という結論に疑問を抱きながらも、教授の言葉に頷いた。



 

まだまだわからないことばかりだが、ぼんやりと自分の中の答えが出来てきた。

そもそも羊皮紙の3節は「時間/場所/事象」の3つに分けていると考えている。

 

時間については、年に一度の夜明け。夏至か冬至の朝なのは間違いない。

場所については候補地が多すぎて、組み合わせで腑に落ちるところを探すしかない。

私はミトラ遺跡と温泉の組み合わせで考えているので、元ローマ帝国領の歴史ある温泉地を探している。

 

白い巨人の王冠の候補地として、アルプス、アペニン、ピレネーなどの山脈群、北極圏、スカンジナビア半島の氷河、エジプトのピラミッドやロシアのクレムリン、エトナ山などの白い火山、カッパドキアの奇岩などがある。元ローマ帝国領と考えるといくつか除外される。

氷涙を氷河の解けた水と仮定すると、氷河を水源とする河と考えられる。

 

白い巨人の王冠から北へ、氷河の溶けた河を越えた先にある温泉のあるミトラ遺跡。

 

無数の組み合わせを試して、しっくりときた場所が見つかった。

アルプス山脈に生えるピラミッドのような角、マッターホルン。

北上を続けると、ゴッダルドの氷河からレマン湖へと流れるローヌ川が横たわる。

川を越えた先にはローマ時代から続く温泉地。

この地域にミトラ遺跡はあるのだろうか。

 

ここから先は現地で調査するしかない……。

現地調査といえば坪井さんだ。坪井さんにお願いするしかない!

「自説の検証で忙しくて、無理かも……。というか、みんな自分で行くよ。」

と、坪井。狼狽える私にさらに追い討ちを与える。

「今から急いで準備しても、冬至まで間に合わないかも。みんなも焦ってるよ。」

改めて周りを見ると、みんなてんてこ舞いだ。

誰にも一緒に行きましょうと頼める空気ではなかった。

 

かくして私は初海外。冬のアルプス山脈で一人旅という過酷な旅程を決めてしまった。

 

【 To be continued 】

​お読みいただきありがとうございました。
【 To be continued 】とありますが、この展示でのストーリーは終わりです。
合言葉「温泉大好き」を1階レジのスタッフにお伝えいただけたら

​ノベルティをお渡しします。
 

7章アルプス.jpg

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